ほぐす
師匠の下で修業をしていたころは
インターンという形で仕事のお手伝いをしていました
授業のときは準備をしたり生徒さんのサポートをしていました
授業でも基本課程と研究科というのがあり
研究科には実際に活躍されている先生方もお見えになり
月に一度集まり講義を受けたり意見交換をしていたものでした
さすがに実践で活躍されている先生方は違います
ご自身の実績をアピールされたりすると修行中の身の私は
圧倒されることもしばしばありました
だんだんわかってきたんですが
治療家という人種の多くは自分が一番上手いと思っているようで
「われこそは!」って感じで自慢話をする人も何人か見受けました
たぶん私もその一人なんでしょうが
あるとき「自分はほぐすのが上手い」というような自慢大会が始まりました
「ほぐす」というのは世間一般でもよく使われる言葉ですが
固まっているものを柔らかくするという意味
カチコチに凝り固まった筋肉を柔らかくするのが私たちの仕事の中心的部分ともいえる大事なことなんですが
当時の私も「ほぐす」というのに全力を傾け修行していたのです
ところが近年「ほぐす」ということ自体どういった現象なのか疑問に思うようになりました
いくつか身体のことで疑問に思うようになったのは
特にマッサージ的なテクニックの機序についてなんですが
物理的な力で硬いものを柔らかくするとそこで起こる現象は組織がつぶれてしまうことです
むかし弟子同士で練習したらかえって痛みが出たり
身体が鈍く感じてそれが数日続くことが何度もありました
ただ単に下手くそなだけで強い力で組織をつぶしてしまったからです
「侵害刺激」という言葉があります
「身体の完全性を脅かす(つまり、組織に損傷を与える)ほど強い刺激です」
とウィキペディアに書いてありましたが
我々が目指すべきなのは身体に侵害刺激を与えて
反応した脳が侵害されたと感じた部位に修復の機能が働くということです
つまり組織を修復するために血液を多く流し込んで再生を図るのですが
その機能だけ利用して固まった部分の弛緩を促すけど
実は侵害刺激だけで侵害そのものはしてませんというパターンを狙っているのだと考えています
つまり脳に対して「侵害してますよ」という刺激だけを与え
実際には組織を壊していないというだまし討ちみたいな理屈じゃないかと思うのです
そうなると物理的な力で硬い組織を柔らかくするのは「侵害そのもの」という解釈です
硬い部分の弛緩は施術が終わってからボチボチと開始するのであり
その結果は1日2日の時間を必要とするはずです
そういう発想でみればその場ですぐ「ほぐれました」というのは
ちょっとどうなのかなという疑問が浮かんできます
もちろん人によって部位によって状態によって
すぐに効果が出る場合もありますので一概には否定できないわけなんですが
結果が出るまでにタイムラグはあります
こういう発想は筋膜などの組織の滑走性を中心に据える考えと親和性が高く
技法同士の連携も考えられると思います
まあ、言葉の使い方の問題なんで細かいことを言うのもアレなんですが
いつもつまらないところに引っかかっていろいろ考え込んでしまう変人のいうことなんで
相手にする必要もありませんし
現場では上手いか下手かの問題につきるのかもしれません
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